小説の続きをちょこっと公開。

 事の始まりは、ロトの勇者三人組が、先代ムーンブルク王の遺志を引き継いで、三人で天界に昇ろうとしたとこ。
 三人はロトの神器を集めてロンダルキアから天空上への道を開いて、神様になるつもりだったんだって。色んな理由があったらしいんだけど、勇者だからってみんな幸せってわけじゃないみたい。マリア女王は美人だけど結婚したら自分の国が無くなるかもしれないって心配があったり、トンヌラは父親にメチャメチャ嫌われてて、父親殺さないと王位を継げない、とか。
 だけど、ルビス様が雨雲の杖を渡すのを拒否して、ハーゴンさんに託してからは色々面倒になってきた。雨雲の杖は取り返さなきゃけないし、おいちゃんにしろハーゴンさんにしろめちゃんこ強いし。目的のためには手段を選ばず、色々酷いことやって来たんだぜ。おいちゃんのひーまごをさらったり、魔物狩りとか、メルキドを魔物達に襲わせて、おいちゃん達のせいにしたりとか。
 でも、更に厄介なことが3人を待っていた。
 デルコンダルの王様が死んじゃった事。
 何でまずいかってと、次の王様がとんでもない奴だったんだよ。さっき話にも出たと思うけどナリーノって奴ね。ナリーノってオイラの基準から見ても相当おかしい奴なんだ。髪の毛をぐりんっぐりんの縦ロールにしてるとか、外見やシュミも確かに相当変なんだけど、妖魔のオイラから見ても人間臭くないんだよね、どっちかって言うと、妖魔とか魔物に近いフンイキ。妖魔特有の背中がぞくぞくするようなカンジはないんだけど。みんなナリーノの事を嫌ってて、気持ち悪いとかキチガイとか言いたい放題言ってるけど、何となく解るな。
 だけどそいつがすんげー頭切れるんだ。常識がないからとんでもないことを思い付いて、それを何のためらいもなく実行しちゃう。みんなに嫌われてるし変な奴だからってみんな最初はまともに相手にしてなかったんだけど、ナリーノは魔物を操ってローレシア海軍を撃退しちゃったんだ。おいちゃんはその時ちょっと手助けしたのをかなり後悔してるみたい。…だって、後から裏切られたんだもんな。
 その話は後でするとして、おいちゃん達がムーンペタを留守にしてる間に、ロト一族はムーンペタを再び取り返したって訳。オイラその時ユークァルを連れて逃げ出したんだけど捕まっちゃってさ。戻って来たおいちゃん達とロト勇者様の鉢合わせ。すわ決戦か!? と思いきや、ばっちりのタイミングでなななんと、魔物の大群がムーンペタを来襲! オイラあの時ホント、死ぬかと思ったよ。おいちゃんも、ハーゴンさんも、ユカも、オイラも、ロトの勇者も、町の人も、アクマシンカンの人達も、みんな一緒に力を合わせて戦った。
 …ナリーノを別にして。
 あの魔物を操ってたのは、全部ナリーノだったんだ。勿論、ナリーノがいくら魔物使いだからってあんなに数を操れるわけがないから、実は魔物と手を組んでたんだけどね。え? どんな奴かと組んでたって? 諸君、驚くなかれ。
 憶えてっかな、星振りの夜のメーンエベント。
 あの時、ユカに向かってメラゾーマ撃ちやがって、おいちゃんとハーゴンさんに吹っ飛ばされた七面鳥野郎。
 あいつ、生きてたんだ。悪運強すぎだよ。
 バラモスが何時ナリーノと手を組んだのか、オイラは知らない。おいちゃん達も、詳しくは知らないみたいだった。ナリーノの奴はバラモスとかなり早い段階で手を組んでいたんだと思ったら、どうやら、違ってたみたい。だってさ、勇者様一行がメルキドを攻撃させたのはバラモスだったんだから。そりゃおいちゃんが怒るのも無理ないよな。もっともバラモスのヤローが勇者なんか信用するわけがないんで、ひょっとしたらバラモスの方からナリーノにもコナかけてたのかもしんない、バラモスのことだから、いつか反旗を翻すつもりだったに違いない、ってハーゴンさんは言ってたから、その辺はオイラにはよく解んない。でも、ナリーノって人間嫌いで、友達は魔物だけって奴だから、やっぱりナリーノが唆したのかも。
 ま、お似合いの二人だけどね。バッキャロー、くそくらえってんだ。
 あのヤロー、ハーゴンさんから力尽くで雨雲の杖をぶんどりやがった上、雨雲の杖を取り戻そうと飛びかかったユークァルをどくがのナイフで刺して、ユークァルをまひさせて連れてっちゃったんだ。ナリーノのヤロー、ユークァルに指一本でも触ったら、承知しないからな! ギッタンギッタンにのしてやる!
 更に不味いことに、去っていったナリーノと入れ替わりにサマルトリア城からの使者がやって来て、トンヌラの妹のラーニャがロトの印を手に、書き置きを残して家出しちゃったってんだから大災難だ。その書き置きの内容ってのがまたふるってら。まんま引用するから、まあ、聞いてよ。

「親愛にしてこの上なく憎らしいお兄様。
 恋する私の気持ちを無視して政略結婚のだしにするつもりなら、私は私の恋に殉ずる事に致します。
 私の思いを解って下さる唯一の方、ナリーノ義兄が私を支援して下さると約束して下さいました。
 許されぬ恋かも知れませんが、私は死をも厭わぬつもりです。
 私を止めようとなさっても無駄です。
あなたの恋する妹、ラーニャより」

 で、この恋する相手って誰だと思う? 小一時間問いつめた後、漸くトンヌラが口を割ったのを聞いてみんな凍ってたからね。笑ったら殺されると思ったからかもしれないけど。
 少なくとも、ナリーノがラーニャ王女の恋心って奴を知ってて利用したのは間違いないけどね。王女様も、ラブラブダーリンに会えると思ってデルコンダルに行ったら肩すかしを食らった訳で、怒ってるかも知れないけど後の祭りだね。
 もち、トンヌラは今すぐに全軍をデルコンダルに差し向けてナリーノ殺すって飛んでいきそうだったんで、みんなで必死に止めたんだけど。恋する気持ちがどうかは解んないけど、トンヌラトンヌラなりに妹のこと考えてるんだな、とその時、オイラは思ったよ。
 話は逸れたけど、とにかくそんなこんなでロトの印とラーニャ王女と、雨雲の杖とユカを人質に取られて、オイラ達は奴らに手出しできない状況な訳。しかも、ナリーノの奴、ロトの印が三王家の手を離れたのを暴露しちまった上でこうぶち上げたのさ。
「ロトの印が三王家より失われたのは、彼等がロトの勇者としての資格を失ったからだ。何故、大地母神ルビスの力がこの世界に及ばなくなったか、考えても見るが宜しい! 即ち、勇者の名を地に貶めたが故に彼等は大地の加護を失い、故に神器は自ずから彼等の下を去ったのである!」ってね。
 真偽はともかくとして、ナリーノの宣言は世界中に衝撃を与えた。殊にロト三国の人達をカナヅチのように打ち据えたのは間違いないね。何てったって、ロトの王家は絶対王政。人々だって勇者様に不満は多少あるかも知んないけど、自分達の王様が救世主だって思ってる。だからこそ強い王権で求心力を維持できたってのに、そうじゃなくなったらどうなるか。誰も王様の言うことを聞かなくなる。やけのすてばちになる。誇りを失った人間って、ミジメなもんだよなぁ。
 おまけのトドメに、ナリーノの奴、こう言ってのけたのさ。ちょいと舌噛みそうだけど、引用してみるね。
「世界の滅びの時は、再び来たれり。否、これより訪れる種々の災厄こそが、世界を呑み込む真の滅びなり。邪教の蔓延はその予兆に過ぎぬ」ってね。
 昔この世界ではそんなウワサが人々の口に上った事があって、みんなは滅びの時を怖れてビクビクしてたんだって。色んな理由が沢山重なってそうなっていったらしいんだけど、一端は勇者様3人組の活躍でそんな空気も一掃された、筈だった。おいちゃんやハーゴンさんが戻って来た上に、三王家が力を失った、というのは人々にとってはトリプルパンチだったってわけさ。
 それだって、ウワサだけで済めば、もうすこしマシだったかも知れない。だけど、ナリーノはそこで満足する奴じゃなかった。
 それがこの雨。
 雨雲の杖の力を悪用したナリーノが造り出した、魔法の雨雲。
 触れたヒトみんなを石にしてしまう、悪夢の雨雫。
 今は丁度初冬、収穫の終わった季節だからまだマシだけど、ずっとこのまま降り続いたら、みんな飢え死にしてしまうっておいちゃんは言ってた。その前に皆凍死してしまうかもしれないってハーゴンさんは言ってたけど。
 この降りしきる雨が終わらない限り、地上は死の世界になってしまうんだ。
 雨が止まない限り、まともにバラモスやナリーノからユカやラーニャ王女を助け出すことも出来ないんだ。
 そりゃおいちゃん達もふてくされるわけだよな。やれやれ。